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マネジドケアの経営技術は相当に複雑で、しかも民営医療保険という意味では日本に類するものが実質的には存在しないため、またもや「当該の専門家」がいないときにどうするかという問題に直面するのである。
ちなみに、ここにいう当該の専門家は、あえて分野をいえば「医療経営学」であり、「医療経済学」日米の医療体制を比較すると歴史的文化的背景からも大きく異なることはいうまでもない。
だからといって、それらの相違点を指摘することに終始していては、緊急の課題である日本の医療保険制度改革を考えるときに用はなさない。
両国の医療提供体制のロジックの相違に絞って検討し、政策努力を引き出すことが議論に値するものと思う。
そのように考えて、医療体制の運営技術に注目した米国のマネジドケアの総括を行ってきたが、とりわけ医療保険の保険料率算定のロジックが、わが国と米国との間の医療提供システムのサステイナビリティ、つまり、「医療事業の経営持続性」の違いを表すものと思われる。
わが国の医療経営持続性については、既に九六年夏から西村周三教授のご指導を得て、研究に取り組み、途中、九八年三月に『社会保険旬報』で「わが国病院の経営持続性をみる新指標の模索」として報告している。
もちろん、医療施設経営のみならず一国の医療制度経営の議論のためにも「経営持続性」の視点が重要であり、少子超高齢化成熟社会を迎えるわが国の重要課題のひとつである医療保険制度改革のための政策立案にとって基礎研究になると確信している。
それゆえ、このたびの米国マネジドケアの研究は、もともと医療経営持続性の日米比較に帰納させる意図があった。
そして、九七年夏に財団法人医療経済研究機構から出された共同研究「病院経営持続性研究報告書」に続いて、日本の医療経営理論を推し進める研究と位置づけていた。
病院経営持続性研究報告書の編集は私自身が務めたが、その内容は病院経営健全化への道程を病院経営責任者自身に理解してもらうことを目的とするものであった。
そして、カナダで起こったような国民皆保険制度下での財政難が理由で病院閉鎖が続き、市民生活が不安になるような事態を避けて、国の医療財政と均衡する病院施設経営の条件を探るものでもあった。
ところが、私が日本を離れたあとの九七年暮れから予想外の勢いで不況が襲い、九四年以降減る傾向にあった医療機関の倒産件数が、九七年度には前年度比で六割増になったという。
また一時、九八年度は公的医療保険による支出額が大半である国民医療費がマイナス成長すると予測された。
その後プラス成長に予測は変更されたが、もしも、マイナス成長に落ち込めば、公的医療保険からの支払いが全収入の九割近くを占めるわが国医療機関では経営破綻するところがさらに増えることが予想される。
バブル破綻後の大型不況に遭遇する中で、わが国の経済学、あるいは経済学者への失望を書くマスコミも目立った。
それだけに国家財政の長期的観点や原理原則を経済学に求めることは理に適っている。
しかしながら、時間的制約のある近時での経済問題の解決に適しているかというと確かに疑問もある。
たとえば、企業倒産を「市場からの退出」といった表現をする経済学は冷静にして客観的ではあるが、果たして倒産を現実の脅威とする人たちや、行き詰まる医療財政の真っ只中にいて解決を求めようとする人たちにはどれほどの期待を持ってよいものかが疑問となろう。
一方、経営学、あるいは経営技術は時代を反映して変化し、その手法には必ずしも普遍性はない。
それは経営技術が内々にその時代の環境条件を取り込んでいるからに他ならない。
いつときは世界的にも『話題になった日本的経営も今では語られることが少なくなったが、その具体的手法、たとえばT自章動車のカンバン方式は、十分に採算に合うようになった近年の情報技術を導入することによって米国の銑経営でも取り入れることが可能となり、その成功例はリエンジニァリングの事例の中で語られている。
すなわち、即時点在庫管理により在庫費用を抑えるという経営理論は普遍であり、それを「読み・書き・算盤」という歴史的な教育価値観を持つ日本では、それを身につけた優秀な従業員が大勢いるという前提のもとでT自動車のカンバン方式なる即時点部品在庫管理が成り立った。
それが、九〇年代に入る頃から以前と比べて数十分の一から数百分の一にまでコストが下がったコンピュータのシステムとネットワークを背景に、米国の自動車メーカーが契約する部品メーカーに自社の部品在庫データベースにアクセスして在庫の不足をチェックすることを許可したところ、T自動車のカンバン方式と同等の即時点在庫管理ができるようになったというわけである。
Tのカンバン方式が米国の自動車メーカーから注目を浴びていた八一年当時にたまたま米国系の経営コンサルタント会社に勤めていた関係で、米国中西部の都市にあった大手のタイャメーカーの工場を視察することがあった。
そこで驚いたのは、工場の清掃の不行き届きと従業員にその注意を呼びかける多種類の言語標示であった。
つまり、日本では当たり前に思われていた読み書きすらも、米国の作業現場では決して容易なことではないことを思い知ったのである。
現場で部品の数を即座に計算して発注することなども当然のことながら難しい注文であった。
一方、当時でもそうであったが、地域内での電話料金はたいへん安い。
これにコンピュータをつなげて、データのやり取りをすることなどダダに等しい。
ちなみに、私が現在住むボストンの環境だと、近隣への電話は月間一六・八五ドルの固定料金でかけ放題である。
また、インターネットのプロバイダは月間九・九五ドルで使い放題のところと契約している。
つまり、月に三〇〇〇円ほどあれば、今の例に上げるような即時点在庫管理のためのコンピュータ・ネットワークを敷くことができるわけである。
この在庫管理の事例にみるように、一度でも優れているという評価を受けた経営技術には、誤りがあってその後に廃れるわけでは決してない。
基本的な経営理論に基づくものは、時代に即して方法論を変えるにすぎない。
その意味で、新たなる環境に馴染む経営手法を検討することは、たとえ一国の制度の問題であっても中短期的なレンジでの対応策や解決策を期待できる。
それゆえに、米国のマネジドケアを、その賛否はともかくとして、その経営技術に着目して、医療経営持続性の視点からわが国の医療保険制度改革に使えるところを検討することは有益と考える。
すなわち、日本式マネジドケアのあり方の如何を検討する価値があると信じる。
このようにマネジドケア医療保険は最も強力な医療保険者の姿であり、保険者機能の強化のお手本となることは間違いない。
要するに、わが国の市町村国保はいうに及ばず、民間が営む組合健保であってもマネジドケア技術を導入して保険者機能を強化できるとはとても思えない。
組合健保は建前こそ民営であるが、実態は保険料率から組織運営や会計報告まで健康保険法や健康保険組合事業運営基準、予算編成基準などで細かく定められており、自分たちで医療保険経営を裁量できる余地はなく、公営保険と何ら変わりはないからである。
そのため、プロフェッショナルな経営意識を育む土壌もない。
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